殺菌について
私たちの身の回りには、常に目に見えない多くの菌やウイルスが存在し、対策として「抗菌」や「殺菌」「除菌」などの表現を目にする機会が多くなりました。病気を引き起こす原因となる菌やウイルスとは、一体どういうものなのでしょうか。また殺菌や除菌の違いとはなんでしょうか。
このページでは、「菌とウイルスの違い」「感染症について」「殺菌とウイルス不活化」について解説していきます。
微生物とは?
「微生物」とは肉眼でみることのできない非常に小さな生き物の総称で、顕微鏡を使わないと観察できない「菌」や「ウイルス」は微生物の1つとされています。ダニなどの小さな動物や昆虫でも、肉眼でみえるものであれば微生物とは呼びません。
微生物は細胞の有無から「原生生物」と「ウイルス」の2種類に分類され、「原生生物」は細胞構造から、核膜を持たない「原核原生生物」と、核膜を持つ「真核原生生物」とに分けることができます。細菌類は「原核原生生物」、カビなどの真菌類は「真核原生生物」に含まれます。
「細菌」「真菌」「ウイルス」って何?
「細菌」について
細胞を有し、適度な栄養・水分などがあれば自分の力で増殖することが可能です。「バクテリア」という言葉を聞いたことがあると思いますが、細菌類のことをいいます。
細菌は、核膜を持たずにDNAが細胞質に露出しています。単細胞であるため、細胞の形態はそれほど複雑ではありません。大きくは、球状の球菌(ブドウ球菌、レンサ球菌など)と棒状の桿菌(大腸菌、緑膿菌など)の2つに分けられます。
「真菌」について
細菌同様、細胞を有し自分の力で増殖することができます。細菌などの原核細胞と違い、核膜を持ちDNAが包み込まれるなど、細胞がかなり複雑なつくりとなっています。真核細胞であるということだけでなく、「発育形態が菌糸状、または酵母系である」「増殖に有機物を必要とする従属栄養型である」などの性状をもって真菌と定義されます。カビやキノコ、麹菌など、現在約10万種以上の真菌が存在するとされています。
「ウイルス」について
細胞がなく、ゲノム(DNA・RNA)とそれを囲むタンパク質から成ります。細胞膜に似たエンベロープとも呼ばれる外皮膜を持つものもあります。また、自分の力だけでは増殖できず、他の生物細胞に寄生し、細胞が増殖のために使用する遺伝子材料やたんぱく質を利用して増殖します。自己複製できないことから、ウイルスは生き物ではないとされています。
菌とウイルスの比較
大きさ | |||
---|---|---|---|
細菌 | 真菌 | ウイルス | |
基本的な構造 | |||
おもな病原体 | 大腸菌、ブドウ球菌、肺炎球菌、 サルモネラ菌、緑膿菌など |
白癬菌、カンジダなど | インフルエンザウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、 コロナウイルス、アデノウイルスなど |
感染症について
「コロナウイルス感染拡大」「O157の感染者数が増加」など季節によって、さまざまな感染症が出てきますが、感染症とはどういうことをいうのでしょうか。
病原体(病気を引き起こす微生物)が、からだに侵入し増殖できる状態になったときを「感染」といい、咳や発熱、嘔吐、下痢などのヒトに有害な症状が現れることを感染症と呼びます。
おもな感染症は下記のようなものがあります。
細菌感染でおこる感染症
腸管出血性大腸菌(O157)感染症、結核、破傷風、敗血症、中耳炎など
真菌感染でおこる感染症
白癬(水虫)、カンジダ症、アスペルギルス症など
ウイルス感染でおこる感染症
感染性胃腸炎(ノロ、ロタウイルス)、インフルエンザかぜ症候群、麻疹、風疹、水痘、肝炎(A型、B型、C型など)、帯状疱疹、プール熱、エイズなど
病原体が生体へ侵入することが感染成立の一歩になりますが、病原体により感染経路は様々です。妊娠中、あるいは出産の際に母体から児に病原体が感染する「垂直感染」とヒトからヒトへ感染する「水平感染」の大きく2つに分けられます。
ここでは水平感染に含まれる3つの感染経路と感染症の例を紹介します。
経気道感染
咳やくしゃみによる飛沫感染も含め、空気中に浮遊している菌やウイルスが呼吸器に入ることを経気道感染と呼びます。
感染症の例:インフルエンザ、風疹、百日せき、水疱瘡など
経口感染
菌やウイルスが含まれた飲食物を口から摂取して感染することを経口感染と呼びます。
感染症の例:ノロウイルス・ロタウイルスによる感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌(O157)など
接触感染
皮膚や粘膜の直接的な接触や、ドアノブや手すり、便座、ボタンなどの表面に付着した菌やウイルスによって感染することを接触感染と呼びます。
感染症の例:プール熱、とびひ、白癬(水虫)、エイズなど
殺菌と抗菌の違いは何?
上記のような感染症対策として、私たちの暮らしの中でも「抗菌」「殺菌」「除菌」などと書かれた製品を見かけることがあると思いますが、この違いは何でしょうか。
学術用語における「抗菌」は、菌を殺す「殺菌」だけでなく、菌を取り除く「除菌」、菌の増殖を抑える「抑制」など、微生物の増殖に少しでも影響を及ぼすことすべてを意味しています。対象は細菌類などの「原核原生生物」真菌類などの「真核原生生物」で、ウイルスは含まれません。
抗菌の定義
※経済産業省「抗菌加工製品ガイドライン」における「抗菌」との定義は異なります。
「抗菌加工した当該製品の方面における細菌の増殖を抑制すること」を「抗菌」としていますので、菌を殺す「殺菌」の効果は含まれません。また、対象は「細菌」のみとなります。
少しの菌でも死滅させれば殺菌といいますので、10%の菌を死滅させ90%の菌が残っていても殺菌といえます。殺菌は「滅菌」「消毒」「減菌」「サニタイズ」に分けられ、対象となるものや、どれくらいの菌が死滅するかによって言い方が異なります。
滅菌 |
:対象物からすべての微生物を死滅させること |
---|---|
消毒 |
:ヒトや家畜に存在する病原性微生物を死滅させること |
減菌 |
:微生物を特定せず、一部の菌を死滅させ量を減少させること |
サニタイズ |
:食品工場における病原性の栄養細胞を殺滅し、その他の微生物を減少させること。食品衛生、環境衛生に特定された表現と考えることができる |
「除菌」は物理的に微生物を取り除くことをいいます。フィルターや水などで、対象物から菌を除くことをいいます。私たちが日常的に行っている、手洗いやうがいも「除菌」に含まれます。
「静菌」は菌の増殖を止める方法です。化粧品や医薬品の防腐剤や、食物を冷蔵庫に入れることも「静菌」といえます。
抗菌の対象にウイルスは含まれないと記述しましたが、ウイルスを死滅させたり、増殖を抑えることはなんというのでしょうか。
ウイルスについてでも述べたように、ウイルスは生き物ではないとされているため、厳密にいうと「死滅」という言い方は当てはまりません。病原性(毒性)や感染性をなくしてウイルス自体の活動性をなくす「不活化」という言い方をします。
では、具体的にどのような方法で菌を死滅、ウイルスを不活化させることができるのでしょうか。殺菌、ウイルス不活化の方法について解説していきます。
さまざまな殺菌・ウイルス不活化の方法
殺菌方法にはさまざまな種類がありますが、薬品などの液体、オゾンガスなどの気体を使用して殺菌する「化学的方法」、熱湯や紫外線などを使用して殺菌する「物理的方法」の2つに分けることができます。
殺菌したいものや場所、目的、規模も異なりますので、その現場にあった殺菌方法を選択する必要があります。ここでは昔から使われていた「次亜塩素酸ナトリウム」「紫外線」、弊社製品でも取り入れている「オゾン」を使用しての殺菌・不活化について解説します。
次亜塩素酸ナトリウム殺菌
次亜塩素酸ナトリウムに殺菌作用を持たせるためには水に溶解し水溶液にする必要があります。
菌やウイルスの細胞内外のタンパク質や脂質などを酸化させることで殺菌、不活化させます。台所用漂白剤などで次亜塩素酸ナトリウムが使用されているので、身近で手軽な殺菌方法ですが、事故のリスクがあったり(酸性洗浄剤と混ぜると有毒ガスが発生する)、直接触れると皮膚が壊死するなど人体への影響もあるので気を付ける必要があります。
食器、手すり・ドアノブ、テーブル、便座などのふき取り殺菌、消毒に使うのが有効です。
紫外線殺菌
細菌が死滅・ウイルスが不活化するメカニズムは、紫外線が遺伝子DNAに吸収されて化学変化を起こし、損傷を与え修復機能を失うことにより微生物が死滅するとされています。
紫外線の中でもUV-C(100~280nm)は細菌類、真菌類に対する殺菌やウイルス不活化作用が強いことが知られており、現在、使用されている殺菌ランプからは253.7nmの波長の紫外線を放射しています。
理髪店での紫外線消毒器の設備を義務付けたことで広まりましたが、殺菌灯を用いて水道水などの殺菌にも使用が拡大してきました。
有人下でも使用できますが、直接紫外線照射された空気やものに対してのみ殺菌力を有するため、照射されていない場所や付着菌は殺菌できないという欠点があります。
診療所などの玄関に設置されているスリッパラックや、歯医者などの器材を殺菌するのに有効です。
オゾン殺菌
「オゾンについて」でも記述していますが、オゾンから生まれる酸素原子が、細菌の細胞壁や細胞膜、ウイルスのたんぱく質皮を酸化分解させることで細菌を死滅、ウイルスを不活化させます。細胞内成分が漏れて死滅するので、耐性菌はつくられません。
高濃度で室内にオゾンガスをくん蒸することで、浮遊菌だけでなく、付着菌も殺菌・ウイルス不活化の効果を得られます。ただし、高濃度で使用する際は、人体に影響を及ぼすので人がいない場所で使用する必要があります。
またオゾンはガスだけでなく、水に溶解しオゾン水として使用することもできます。殺菌後、再度洗い直す必要がないため、魚や野菜など生鮮食品や調理器具などの殺菌で使うことができます。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液 | 紫外線 | オゾンガス | オゾン水 | |
---|---|---|---|---|
殺菌法 | 液体(ふき取り) | 光(照射) | 気体(くん蒸) | 液体(洗浄) |
使用場所 や用途 |
嘔吐物の処理 食器、手すり、ドアノブなどのふき取り |
スリッパラックや理髪店、歯医者などの器具の殺菌 | 室内の浮遊菌や付着菌の殺菌 | 市場や食品工場など、生鮮食品や調理器具、設備の殺菌 |
注意点 | 液直接触れると皮膚が壊死、失明の可能性がある 殺菌効果が下がるので作り貯めは避ける |
紫外線が直接人にあたると有害 照射から外れた場所や物には効果がない |
高濃度のオゾンは人体に有害(無人の場所で使用すること) | 残留しないため効果が持続しない |
参考著書
図解入門よくわかる最新抗菌と殺菌の基本と仕組み
(高麗寛紀 著)
わかりやすい殺菌・抗菌の基礎知識
(高麗寛紀 / 河野雅弘 / 野原一子 共著)
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