においに敏感な人と鈍感な人の違い

同じ場所や物を嗅いだ時、においを感じる人と、そのにおいに気がつかない人もいます。においを感じる人がいるということは、におい分子はそこにあるはずなのに、どうして人によって違いがあるのでしょうか。
その理由を、嗅覚の特性と、嗅覚障害の可能性から考えてみます。

まずは、においに気がつかない人が、同じにおいを継続的に嗅いでいた場合です。
嗅覚以外の感覚でも起こることですが、外部から同じ刺激を継続して受けていると、反応しにくくなっていきます。
においを感じるメカニズムは、におい分子が鼻の中に入り、嗅細胞でキャッチして電気信号に変換し脳へ送ります。しかし、同じにおいを長く嗅いでいると、嗅細胞の感度が低下し、また刺激の目新しさがないことから反応が生じなくなります。この現象を、鼻が慣れると言いますが、学術的には「順応・慣れ」と言います。例えば、自分の家のにおいは分からないものですが、他人の家に入るとにおいを感じるというのは順応・慣れの現象があるためです。

また、同じにおいをずっと嗅いでいて順応が起こった場合に、その他のにおいに対する感度が変化してしまう現象もあります。順応が起こったにおいではない、他のにおいを弱く感じる現象を「交叉順応」と言います。これは、2つのにおいが脳に届くまでのメカニズムが類似する場合に起こるとされています。
反対に、その他のにおいに対して感度が高くなる「交叉促進」という現象もあります。これは、特定のにおいを認知したことによって、強度が弱くて分からなかったにおいまで、強く感じるように変化したためと考えられています。例えば、同じ物を嗅いだ2人が、そのにおいのメカニズムや質と類似したにおいに順応・慣れが起こっている場合、1人はにおいを弱く感じ、1人はにおいを強く感じる、というように、それぞれ違う反応が起こりえます。

さらに考えられる原因としては、嗅覚障害の可能性があります。においを完全に感じなくなった状態を「嗅覚脱失」と言い、日常生活にも支障をきたします。また、完全に無くならないまでも、感度が低下する「嗅覚低下」という症状もあります。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)では、感染すると嗅覚障害を引き起こすことが多く、また他の感染症と比べても後遺症として長く症状が残る割合が高かったことが分かっています。パンデミック初期に感染した人を調査した結果、感染から1年以上経っても嗅覚に問題がある人が46%もいることが分かりました。感染経験者のうち7%は、完全に嗅覚を失う嗅覚脱失の状態が続いていたことが分かっています。


また、多くのにおいは正常に感知するが、特定のにおいのみ感じることができない、あるいは弱く感じる「嗅盲(特異的無嗅覚症)」という症状もあります。これは、その特定のにおい分子をキャッチできる嗅覚受容体が少量しかない場合や、その遺伝子が失われていたり、機能が不完全であったりする場合になることがある嗅覚障害です。

しかし、嗅覚にはガスなどの危険物を検知するほか、食事にも嗅覚が大きな役割を果たしています。そのため、においが分からないと身に危険が及ぶ可能性もあり、嗅覚を刺激してトレーニングを行い、嗅覚を取り戻す治療法も研究が進んでいます。

においに気が付かない人の可能性を紹介しましたが、反対に、特定のにおいに対して、過敏に反応する「嗅覚過敏」という症状があります。これは、そのにおいが特に強いわけではない場合が多く、そのにおいを感じると不快になり不満を言うため、過去の記憶など心的な原因とされています。この障害になると、そのにおいを嗅ぎ、捜しまわるなど過敏行動を引き起こすケースもあります。

順応・慣れ、嗅覚障害についてお話しましたが、そもそも「においの感じ方」の記事でも紹介しているとおり、感覚には個人差があります。たかが、においと思わずに、自分が気にならないにおいに対して、他人から指摘があれば、しっかりと調査してみたほうがいいかもしれません。

ちなみに、海外からの旅行客が日本の空港に到着すると、醤油のにおいがするそうです。
私たち日本人は、鼻が慣れてしまっているので分かりませんね。