においの話
スープは熱い方がにおいが強いのはなぜ?
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熱いスープと冷たいスープ、どちらの方がいい香りがしそうですか?
おそらく多くの方が「熱いスープ」と答えるかと思います。
同じ材料で作ったものは、含まれるにおい物質も同じはずなのに、なぜ温度によって違いがあるのでしょうか。物質が持つ「蒸気圧」と、人がにおいを感知する仕組みを知れば、その謎が解けます。
蒸気圧とは液体、または個体と気体が平衡状態になったとき、気体になった分子が飛び回る運動により生じる圧力のことです。蒸気圧は物質の種類と温度によって決まりますが、蒸気圧の高い物質は気化しやすく、低い物質は気化しにくくなります。また、蒸気圧と、外気圧(液体に接している気体の圧力)が等しくなったときに、沸騰が起こります。
難しいので、水を例にして説明してみます。鍋に入れた水を火にかけると、沸騰する少し前から水蒸気が放出され、沸点である100℃になると一気に湯気が立ちこめますよね。水の蒸気圧は40℃の場合は55.3mmHg、70℃で233.8mmHgと、温度が上昇するにつれて圧が大きくなり、100℃では760mmHg=1気圧となり、外気圧と等しいため沸騰が起こるのです。
気化と聞くと湯気が出ている様子を思い浮かべますが、常温の場合も一部は気化しています。上記の40℃の水の蒸気圧を見ても、100℃に比べると小さいですが、少しは気化していることが分かります。
揮発性が高いと言われる物質は、蒸気圧が高い物質です。例えばエタノールの蒸気圧を見ると40℃の場合で133.4mmHgで、水と比べてもとても高く気化しやすいことが分かります。
続いて、人がにおいを感知するまでの流れを見てみます。
気化したにおい分子が鼻の奥にある嗅上皮に溶け込み、においセンサーのある嗅細胞から電気信号に変換され脳へ届きます。詳しくはこちらの記事でご紹介しています。つまり、多くのにおい分子が鼻の中に入ってくると、よりたくさんの電気信号を送ることができます。スープが熱いと蒸気圧が高いため、多くの気化したにおい分子が嗅上皮に溶け込むことができ、においを感知しやすいのです。
ちなみに、蒸気圧の高い物質は気化しやすいので、鼻の中に入るにおい分子の量は多くなります。ただ、においを感じやすいかどうかは、その物質の嗅覚閾値も関係するため、蒸気圧が高い=においを感じやすいとは言い切れません。