においの濃度と感覚の関係

ある人が「臭い」と感じるにおいについて、その成分の濃度を10倍に高めた場合、高める前のにおいの強さと比べて、どのように感じると思いますか?

a.「とっても臭い!10倍くらい臭くなった!我慢できない!」
b.「さっきよりも少し臭くなった、倍くらいの臭さだ。」

10倍と聞くと我慢できないくらい、においが強くなりそうですよね。
しかし実際は「b」の反応になる可能性が高いです。実は、においの濃度(刺激量)と、人が感じる強さ(感覚量)はイコールではありません。
臭気そのものが10倍濃くなっても、人の感覚としては2倍にしか感じないのです。

これは、嗅覚だけではなく人間の五感全てに共通することですが、人間の感覚の大きさは、受ける刺激の対数に比例します。これを、「ウェーバー/フェヒナーの法則」と呼びます。

例えば、1kg入りのお米に100gおまけが付くと重さの変化を感じますが、10kgに100gだけ増えても変化を感じませんよね。
しかし、10kgに1kg増やすと変化を感じます。もともとの重さ(刺激の強さ)が大きい場合、増やす量も大きくしなければ、感覚としては変わらないのです。

この法則は「悪臭防止法」の中で、工場や事業場から出される臭気を規制するためにも使われています。

上記で説明したように、におい成分の濃度と人の感覚は異なるため、近隣住民が感じている実際の悪臭被害を防ぐために、ウェーバー/フェヒナーの法則を利用した6段階臭気強度表示法と臭気指数によって悪臭の排出が規制されています。

この法則で考えると、脱臭対策がいかに難しいかが伝わると思います。
例えば、ある臭気が100ppm存在するとして、感覚の強さが1の場合に、3ppmになるまで脱臭できたとします。
濃度で見ると97%除去できていますが、人の感覚では強さは0.5、つまりまだ半分の臭気が残っているということです。

工場や事業場からの排出される悪臭に対して、2021年は全国で6,174件の苦情が寄せられました。
悪臭を出さないよう一生懸命に対策をしても、その周辺で過ごす人々が改善されたと感じるまで脱臭するには、大変労力がかかる場合が多いようです。